ブックライターの事件簿|長く仕事をしているといろいろあります

どんな仕事も、長年やっていればなにかしらの事件に遭遇するものです。というわけで、今回は出版業界に足を踏み入れてから今までに起きた、個人的に忘れられない事件をご紹介したいと思います。本サイトの趣旨である、ブックライターになるためのお役立ち知識とはちょっと違いますが、まあ、こんなこともあるんだと思っていただければ幸いです。

CONTENTS

  • CASE1|テープ起こしライターが音信不通に……!!
  • CASE2|ライターさんが音信不通に……!!
  • CASE3|取引先が倒産……!!
  • CASE4|高級ホテルにカメラマンさんが……!

CASE1|テープ起こしライターが音信不通に……!!

私がブックライターになる前の、とある出版社に勤めていたときの話です。あるタレントさんのビジネス本を先輩の編集者さんと二人がかりで担当することになりました。進行がかなりタイトで、北海道で取材して千歳空港からインタビュー音源のMD(ICレコーダーが今ほど普及していなかったのです)をテープ起こしライターさんに送ったり、ライターさんに新幹線での移動中に取材してもらったり、ゲラを東京から北海道まで飛行機便で送ったりと、関係者一同てんやわんや。「関係者が誰かひとりでも倒れたら発売が遅れる!」という、まことに綱渡りな状況に陥っていました。

テープ起こしライターさんは、それまでに何度もお願いしてきた、スピードに定評のあるフリーランスの方。1本目のテープ起こし原稿は超特急で仕上げてくださり、おかげでブックライターさんにすぐさま原稿にかかってもらうことができました。

ところが、です。2本目のテープ起こし原稿が期日になっても届きません。何度メールをしても返信はなく、電話は常に留守電につながってしまいます。あれ……? これはやばいのでは……? 

嫌な予感を抱きながら、先輩編集者は最終手段としてテープ起こしライターさんの自宅に突撃。しかし、インターホンをいくら押しても応答はなし。仕方なく、置き手紙をして会社に戻ってきました(私は別作業で会社で待機)。仮にそのテープ起こしライターさんがなんらかの事情で仕事ができないなら、せめて音源は返してもらわなければなりません。音源がなければ、ほかのテープ起こしライターさんにあらためて発注することもできないのです(コピーをとっておかなかったのは痛恨のミスです)。

胃がキリキリと痛むような夜を過ごした翌朝、先輩編集者のもとにテープ起こしライターさんから待ちに待ったメールが! そこには、次のようなメッセージが書かれていました。

「一身上の事情により、テープ起こしのお仕事をこれ以上続けることができなくなりました。まことに申し訳ございません。お預かりしているMDは紙袋に入れ、自宅の玄関のドアノブにかけておきますから、持っていってください」

……申し訳ないと思うなら、せめて宅配便で返却してぇ!? 

その後、先輩編集者が再びテープ起こしライターさんの自宅にいき、MDは無事回収。刊行予定日から少し遅れたものの、関係者各位の尽力によりなんとか出版することができました。

CASE2|ライターさんが音信不通に……!!

数年前の出来事です。見通しの甘さから仕事量が完全にキャパオーバーしてしまった私は、抱えている仕事の一部をほかのライターさんにアウトソーシングすることにしました(もちろんクライアントさんの了承は得ています)。知り合いのライターさんたちそろって手一杯だったため、知人の編集者さんにライターさんを紹介していただくことになりました。

知り合いの編集者さんが「若いけどやる気もあるし、責任感もあるから」とすすめてくださったそのライターさんにさっそくコンタクトしてみると、とても感じがよく、レスポンスの早さも申し分なし。面識はありませんが知人の編集者さんのお墨付きですし、十分信頼できそうです。

そこで、トライアルも兼ねてさっそく800字ほどの原稿を2本お願いすることに。必要な資料や注意事項などもきちんとお伝えして、くだんのライターさんからは「ていねいな資料をありがとうございます! それでは〆切りまでに原稿を送りますね。がんばります!」と100点満点のお返事をちょうだいしました。

なのに! なぜ!


〆切りになっても原稿はいっこうに届かず、メールをしても返信はなし、電話は留守電につながるばかり。結局、そのライターさんとは二度と連絡がつきませんでした……。

それにしても、人の感情とは不思議なものです。連絡がつかないことに気づいた当初、私はひたすらあせり、アワアワしていました。次にそれは憤りと恨みに変わり、やがて心配でたまらなくなったのです。

仕事を放棄するということは、今回はじめて取引する私はともかく、紹介してくれた編集者さんの信頼をも損なうことになります。今後、知り合いの編集者さんからの受注は望めないでしょう。それにもかかわらず音信不通になるということは、つまり、不慮の事故とかでは……? と勝手に身を案じてしまうのです。最終的には「生きていてくれればそれでいい」と達観しつつ、舞い戻ってきた原稿を泣きながら書いたのでした。ああしんどかった。

CASE3|取引先が倒産……!!

出版不況が叫ばれて久しく、出版社や取次会社の倒産のニュースはもはや珍しくありません。会社が倒産すれば従業員の方だけでなく、取引先も多大な影響を受けます。私も過去、取引があった出版社が倒産し、未払いの原稿料を支払ってもらえないという憂き目に遭っています。倒産のお知らせが来たあと、毎月数百円がトータル2年ほど振り込まれ(数百円て……)、回収できたのは予定していた原稿料の5分の1ほど。

倒産のお知らせとともに、債権者や債権額が記載された債権者リストが送られてきたのですが、こちらはたいへん興味深かったです。倒産した出版社はタレント本を多く出しているところで、リストには芸能人やスポーツ選手の名前も。そんな有名な人たちの名前と自分の名前が一緒に並んでいるのを見て、なんともいえない気持ちになったのをいまでもよく覚えています。

CASE4|高級ホテルにカメラマンさんが……!

フリーランスになったばかりの夏の日でした。都内のある高級ホテルのホテイチ(死語?)を取材することになり、私はきれいめな服装にジャケットを羽織り、慣れないヒールを履いて現場に臨みました。

対応してくれる広報さんはもちろんスーツ姿、まわりのお客様も洗練された装いで、「ジャケットとヒールで正解だった!」と胸をなで下ろした瞬間、カメラマンさんが登場。Tシャツに短パン、ビーサンという出で立ちに、度肝を抜かれました。

……TPO! Time・Place・Occasion!! 

広報の方も内心はびっくりしていたでしょうが、そこはさすが高級ホテルの広報です、そんな様子はみじんも見せず、終始にこやかに対応してくださいました。

NOTE
仕事をしているといろいろありますよね。でも、過ぎてしまえばたいていのことはネタです(たぶん)。いずれにしても、いきなり音信不通になって飛ぶのだけはやめようと心に誓っています。ちなみに、まだメールや携帯が普及していなかった時代、原稿を催促するために電報を送ることもあったとか。いつかやってみたいものです。